資源量は世界3位、火山国ニッポン「地熱発電」に活路!

火山国である日本では地下の高い温度を使い、蒸気タービンを回して発電する地熱発電も大きな可能性がある。産業技術総合研究所の安川香澄氏は「日本は世界の三大地熱資源保有国の一つ」と語る。
 「地熱資源量は

 

、火山の個数に比例します。119もの活火山がある日本は、米国、インドネシアについで世界3位。2347万キロワット分もの地熱資源があります。ところが、昨年の日本の発電設備容量は約54万キロワット。まだまだ開発の余地があります」

 地熱発電関連の技術も、日本は世界トップだと安川氏は言う。

  「世界の地熱市場に占める日本製タービンのシェアは極めて高く、富士電機、三菱重工、東芝の3社の合計で、市場全体のほぼ7割を占めています。地熱発電に 利用される地熱蒸気の中には、酸性物質を含む多くの化学成分が含まれるため、耐腐食性の高い機器が要求されますが、こうした部分でも日本の技術が評価され ているのです。また地面を掘る掘削技術も高く、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の深部地熱資源調査では’95年、深度約3700mで 500℃を超える高温を記録。地下で測定された温度としては世界最高であり、この記録は現在も破られていません。さらに、地下の高温の蒸気や熱水を探し当 てる技術にも優れています」

 こうした日本の技術を活用しているのが、火山国のアイスランドだ。富士電機の火力・地熱統括部プラント技術部長、山田茂登氏が解説する。

  「アイスランドは、20年前から脱化石燃料社会を宣言し、クリーンエネルギーの導入に力を入れてきました。同国での総発電量のうち約3割が地熱発電による ものです。安い電気を売り物に、電力消費の多いアルミ工場を誘致したりもしています。昨年は、アイスランド大使館の主催で日本アイスランド地熱エネルギー フォーラム2010が開催され、両国による地熱発電開発の可能性などについて議論されました」

 資源も技術もある日本の地熱発電だが、政 府や電力業界には過少評価されているようだ。「日本では’00年以降新しい発電所の建設はなく、既存の発電施設もその出力を使い切っていません。これに対 し、世界の地熱発電の設備容量は右肩上がり。各国の設備容量は、例えば米国では過去5年間に53万キロワットもの増加があり、昨年は約309万キロワッ ト。同じくインドネシアも5年間で40万キロワット増加し、昨年は約120万キロワットと、1.5倍に増えました。そのほか、メキシコ、ニュージーランド などでも、大幅な伸びが見られます」(安川氏)

 安川氏は、日本での地熱エネルギー普及の課題として、「許認可の円滑化、固定価格買い取り制度の改善、建設場所の規制緩和、温泉業界の理解などが必要」と指摘する。

  「電力会社が地熱発電に乗り気でない理由の一つに、コストの高さがありますが、これは建設にあたっての許認可に時間がかかり、稼働まで10年も必要だか ら。米国では4~5年で建設されています。許認可のスピードが上がれば、コストも下がります。地熱発電による固定価格買い取り制度の導入も昨年7月に決ま りましたが、その買い取り価格(15~20円/キロワット時)は必ずしも導入促進に十分ではありません。立地については、規制や地元の合意などの課題もあ ります。国内の有望な地熱資源は、その8割が国立公園内にあり、建設が難しかった。昨年、規制の一部見直しがありましたが、さらなる規制緩和が必要です。 今の技術ならば、国立公園の外から地下を斜めに掘ることで、自然環境への影響を最小限にすることもできるのです。温泉関係者には、地熱発電所が近くに建設 されると温泉が枯れてしまうのではないか、という不安もありますが、大霧地熱発電所(鹿児島県)の近くの霧島温泉郷には、約130もの源泉があり、変わる ことなく利用されています。適切な規模であれば、地熱発電と温泉の共存は十分可能です。常に70%以上という安定した稼働率や、温室効果ガス削減効果な ど、地熱発電のメリットがより多くの人々に理解されることも重要ですね」


澄川地熱発電所全景
●地熱発電とは
 我が国は世界有数のエネルギー消費国であるが、資源に乏しくそのほとんどを海外からの輸入に頼っている。このため、当社では、一つのエネルギーに偏らないよう様々なエネルギーを利用して発電を行なっており、その一つが「地熱発電」である。  地熱発電では、深さ約3キロほどの地中から噴出する蒸気で直接タービンを回し、発電機を駆動して電気を得る。
 火力発電では石炭、石油、LNGなどの燃料をボイラーで燃焼し、その熱で蒸気を発生させるのに対し、地熱発電で燃料・ボイラーの役目を果たしているのは、マグマという巨大なパワーを備えた「地球」そのものである。
 地球は、中心部へ近づくにつれて高温となるが、深さ30~50キロで約1,000℃の大きな熱の貯蔵庫なのである。
 ただ、残念なことに、この熱源は地球の奥深くにあるため、現在の技術では利用することができない。しかし、火山や天然の噴気孔、温泉、変質岩などがある 地熱地帯では、比較的浅い部分におよそ1,000℃前後の「マグマ溜まり」があり、この熱によって地中に浸透した雨水などが加熱され、「地熱貯留層」を形 成することがある。
 この「地熱貯留層」に蓄えられた熱をエネルギーとして利用するのが、地熱発電であり、このエネルギーは、数少ない貴重な純国産資源なのである。
地熱発電所の仕組み
●地球にやさしいクリーンエネルギー
 地熱発電は、化石燃料などによる燃焼がないので、地球温暖化の原因のひとつである二酸化炭素(CO2)の排出量がきわめて少ないクリーンなエネルギーといえる。
 また、蒸気中には少量の非凝縮性ガスが含まれるが、発電後には冷却塔上部から大量の空気とともに上昇拡散させ、地上に滞留しないよう配慮している。
 さらに、発電によって発生する余剰水および蒸気生産井からの余剰水は、すべて地下に還元するクローズドシステムを採用し、環境保全や資源保護を図っている。
●地熱発電の歴史
 世界最初の地熱発電所は、1913年に完成したイタリアのものであるが(実験段階としては、1904年にイタリアで成功)、日本では1919年に海軍中 将・山内万寿治が大分県別府において地熱用噴気孔の掘削に成功、これを引き継いだ東京電灯研究所長・太刀川平治が1925年に実験発電に成功したのが最初 である。しかし、実用地熱発電所としては、岩手県松尾村の松川地熱発電所(現在も稼働中)が、1966年に運転を開始したのが初めてである。
●東北は地熱エネルギーの宝庫
 当社では、ここで紹介する秋田県の澄川と上の岱(うえのたい)両地熱発電所以外にも、岩手県の葛根田(かっこんだ)地熱発電所、福島県の柳津西山地熱発電所を有し、合計出力22.38万キロワット(秋田県内は上記2ヵ所合計で7.88万キロワット)を誇る。
 当社を含めた東北エリア全体での合計出力は、日本の地熱発電のじつに51パーセントを占めている。温泉の多いことで知られる東北は、まさに地熱エネルギーの宝庫といるのである。
●澄川地熱発電所(秋田県鹿角市八幡平)
 玉川温泉、後生掛温泉をはじめ、たくさんの温泉や八幡平、湯瀬渓谷などの景勝地に近い澄川地熱発電所は、標高1,062メートルという、東北で一番目、 日本では二番目の高所にある発電所である。平成7年3月から営業運転を開始し、出力は5万キロワットで、約13万世帯の一般家庭が使用(全世帯が1カ月あ たり280キロワットアワー使用した場合:秋田市の一般家庭に相当)する相当の電気を供給できる大規模な発電所である。
 およそ9万8,500㎡の敷地には、生産井(地下貯留層から蒸気や熱水を採取するための井戸)9本、還元井(生産井から産出され、発電に利用されたあと の熱水を地中にもどすための井戸)12本を持つ。なお、地熱は三菱マテリアル(株)が生産した蒸気を用い、当社では発電のみを行なっている。
 世界で最初に蒸気タービン第一段ノズルに水冷却方式を採用、タービンなどへのスケール付着防止を実現した。
 本館とPR館の建物は山小屋風で、周囲の自然環境になじむよう落ち着いた色調にしてある。冬期は最低気温マイナス20℃、積雪4メートルを超えることもあり、パトロールのための雪上車も配備されている。
中央制御室 タービン
●上の岱地熱発電所(秋田県湯沢市高松)
 湯沢市の東南約30キロの国有林のなかに位置し、近くには泥湯温泉、小安温泉があり、また小安峡、木地山高原、川原毛地獄などの観光名所にも近い。
 平成6年3月から営業運転を開始し、出力は2万8,800キロワットで、約8万世帯の一般家庭が使用(全世帯が1カ月あたり280キロワットアワー使用 した場合)する相当の電気を供給できる発電所である。敷地は約5万6,400㎡で、ここに生産井10本、還元井7本を持つ。なお、地熱は秋田地熱エネル ギー(株)が生産した蒸気を用い、当社では発電のみを行なっている。
 蒸気への清水注入方式によるタービンスケール付着防止装置の実用化は、世界初の取り組みである。また、小型多セル型を採用して、冷却塔の高さを抑制して いることも特筆すべき点である。なお、本館の建物は山小屋風、PR館はログハウス風と、ここでも周囲の自然環境に配慮している。
上左:上の岱地熱発電所全景
上右:タービン(左)と発電器
下左:冷却塔
下右:変圧器の除雪作業